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『オペレーティングシステム 設計と実装 第3版』を読んだ

1953年、ワトソンとクリックによりDNAの二重らせん構造が発見されたとき、生命には神がかり的なものは何もないことが明らかとなった。以来、生命をめぐる神学上の諸々の問題は、科学とエンジニアリングの問題となった。本書を読めば、読者は、オペレーティングシステムカーネルについて同じ発見をすることになる。

本書は、私の家の積読本コーナーにもう長いこと置かれていた。本書の原書が出版されたのが2005年。本書は、その翻訳として2007年に出版された。翻訳が出版されてすぐに手に入れたのだが、ずっと読めずにいた。何度か読もうと挑戦したものの、途中で挫折してしまっていた。読書会にも参加したが、途中で脱落してしまった。

今回、何度目かの挑戦で、ようやく読み終えることができた。実は、この本を読むのには、少々コツがあったのだ。本書は、1000ページを超える大著である上、本の後ろ半分がソースコードという、かなり特殊な本である。

本書では、カーネルデバイスドライバ、メモリ管理、ファイルシステムのそれぞれのオペレーティングシステムコンポーネントについて、それぞれひとつの章が割り当てられている。それぞれの章は、以下の順番で構成されている:
  1. オペレーティングシステム理論
  2. MINIXによる実装の概要
  3. MINIXソースコード解説
  4. ソースコード
ただし、ソースコードは、すべてまとめて本の後ろ半分に付録となっている。1と2は普通に(つまりシーケンシャルに)読むことができる。問題は、3と4を如何に読むかである。

今まで私がどうやって読もうとしていたかというと、3と4を逐一対応付けながら読もうとしていた。つまり、ソースコードをちょっと読んで、該当する解説を読み、そしてまたソースコードに戻るという具合だ。

この読み方は、非常にしんどい。本文とソースコードとを、頻繁に行ったり来たりしなければならないからだ。すなわち、コンテキストスイッチのオーバーヘッドが大きい。

コツは、ソースコードを先に読むことだ。解説を読まずに、まず、ソースコードを読めるところまで読む。多少わからないところがあっても、本文で解説されていることを期待して、どんどん読み進む。ソースコードをある程度まとまった量(私には1ファイル分くらいが丁度よかった)読んだら、解説に目を通す。すると、自分の理解が正しかったり、あるいは間違っていたことがわかる。

本書は、Linux誕生のきっかけとなった事で有名だ。しかし、オペレーティングシステムの教科書としても非常によい本である。本書の、オペレーティングシステムソースコードを読むことで学ぶというアプローチは、オペレーティングシステムの真の姿を明らかにする。

著者のTanenbaumは述べている:
実際のOSの真の姿は、知性的な興奮に満ちたものとは程遠く、マイナーな雑用を行うコードの集まりである。しかし、このようなコードこそシステムの可用性を向上するためには非常に重要なのである。(p.637)
また、その少しあとで、こうも述べている:
優れたシステムと平凡なシステムの違いは、スケジューリングアルゴリズムのすばらしさではなく、細部まで正確に仕上げる配慮にあるのである。(p.637)
私自身の学生時代を思い返してみると、オペレーティングシステムの授業では、スケジューリングやページングのアルゴリズムばかりが印象に残っている。そして、オペレーティングシステムとは、普通のプログラムとはどこか異なる、摩訶不思議な、何か神がかったものという印象を持ってしまっていた。

ワトソンとクリック以来、生命は単なる有機化合物の塊となった。本書が明らかにしたように、オペレーティングシステムも、単なるCプログラムの塊に過ぎないのだ。