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明日のための仕事

本日をもってミラクル・リナックスを退職する。2年半という短い間だったが、たくさんの方々にお世話になった。お礼を申し上げる。

私のミラクルでの仕事を振り返ってみると、最大の貢献と言えるものはLinuxに関連することではなかった。エンジニアリングですらなかった。それは人に関連することだった。すなわち、若者の育成であった。

仕事を行う者にとって、学校を卒業して最初に入る会社は重要である。最初に入った会社で、仕事を行う者としての価値観を築く。仕事のやり方を覚える。それはその人の職業人生をとおして大きな影響を与える。

私は、三菱電機でエンジニアとしてのキャリアをスタートさせた。私の配属された鎌倉の古い工場は私の原点である。私はいつでもそこへ戻ることが出来る。私のエンジニアとしての精神的バックボーンは今も鎌倉の工場にある。

私がミラクルへ入社した年は、ミラクルが本格的に新卒採用を始めた年でもあった。ミラクルでは、驚くほど新卒を受け入れる体制ができていなかった。学校を卒業して最初に会社に入る者への責任を果たしていなかった。

その年入社した女性には、最初の1年は非常につらい思いをさせてしまった。先輩たちはただ見守ることすらできなかった。見守るということを知らなかった。彼女は今では立派なエンジニアに成長したが、これは100%彼女自身の努力によるものと言ってよい。

明らかに改善の余地があった。そこで私は、人事部門と協力して若者のメンター制度を構築することにした。これは、三菱電機で私を教育してくれた人たちへの恩返しのつもりでもあった。

この制度の特徴は、若者の後見人としてのメンターと、OJTで実務を教えるプロフェッショナルとしてのトレーナーを明確に区別することにあった。若者は様々な仕事を行わなければならない。それぞれの仕事にトレーナーが存在する。しかし、仕事を行う者としての若者の成長には一貫してひとりのメンターが責任を持つ。

この制度のモチベーションとしては、日々の多様な業務に流されて、ただ慌ただしく時間が過ぎ去らないようにとの配慮がある。様々な業務を行う中で、自分を見失うことなく着実に成長し、価値観を築き、精神的バックボーンを築いて欲しいとの意図である。

もちろん、この制度がベストだとは思っていない。この制度はまだ時の試練を受けていない。これから何年も運用して改善していかなければならない。

今日の仕事を行うのは我々の責任である。しかし、明日の価値を作り、明日の仕事を行うのは若い人たちである。したがって、人材の育成はそれ自体が価値をもつ成果であると言ってよい。今日の仕事として、明日を担う若者を育成しなければならない。